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人生の落伍者が酒に塗れながらくだらない事を書き連ねます
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(2010/04/30)
今回初めて1時間SSに挑戦しました。
お題は「繊細」を使用。

……ひどくありきたりな作品になってしまいましたが、
それでもよろしければご笑覧下さい。


「私は、もっと私の歌声を届けたい。だから目指すの、アイドルとしての高みを」
夕焼けを背に、透き通った声ではっきりと宣言した彼女の姿はとても儚げで。
だから私は、彼女を傷つけないようにそっと抱きしめた。


如月千早という女の子を初めて見たときに受けた印象は、ガラス細工みたいと言うものだった。
私、天海春香より少し遅れて765プロダクションにアイドル候補生として入所した千早ちゃんは、
どことなく冷たくて、そして繊細な印象を抱かせる様なところがあった。
全てを見透かしてしまいそうな切れ長の瞳に、枝毛一つなさそうなつややかな黒髪。
ファッションモデルを思わせるしなやかな体つき。
容姿の繊細さに加えて、入所したての頃の千早ちゃんは、どことなく人を遠ざけるものがあった。
それでも仲良くなりたいと私はアプローチを掛け、根負けしたのか千早ちゃんは私と会話をするようになった。
そんな事を重ねていくうちに、私たちは二人の時間を過ごすことが多くなっていた。

私たちの距離を知ってか、それとも単純にイメージの問題か。
私と千早ちゃんは、デュオユニット「AIEN」としてデビューすることになった。
そして番組出演を賭けた、初めてのオーディションで、私たちはトップで出演枠を射止めることが出来たのだった。


オーディションを終え、事務所へ戻ってからの事。私と千早ちゃんは、屋上に上り、
夕日に照らされた町並みを眺めながら、近づいてくる夜の気配をはらんだ街の風にあたっていた。
オーディションを控えたときの緊張とか、結果を聞いたときの胸の高鳴りとか。
いろいろな思いがない交ぜになって熱を持った体を冷やしたくて、私は屋上へ向かう階段を上った。
千早ちゃんも同じ事を思っていたみたいで、私について屋上に向かったのだ。

フェンス越しに赤く染まった町並みを眺める。春も半ばになった季節だけど、夕方の空気は涼やかで。
上気した頬を撫でては、その熱を奪っていってくれた。
「オーディションに合格したの、夢じゃないんだよね」
肩を並べて町並みを見下ろす千早ちゃんに私は語りかける。
「あら、春香は合格出来るって信じてなかったの?」
こちらに向き直らずに、千早ちゃんは答える。ちょっと聞いたら悪意があるように思えるかも知れないけれど、私は
千早ちゃんがそういう意味で言わない事を知っている。
「うーん、合格したいなとは思っていたけど。初めてのオーディションでしょ、もっと凄い人が出てきたらどうしよう、って思っていたし。
それに、トップ合格というのもいまいち実感が沸かないと言うか」
「馬鹿ね、まだデビューしたてのアイドル達を集めてのオーディションなんだから、とんでも無い人が出てくるなんてそうは無いわ。
それに、レッスンの結果は自分を裏切らないって知っているでしょう?」
千早ちゃんの口元には笑顔が浮かんでいる。子供の時に幾つも賞を取っていると言うだけあって、千早ちゃんの歌はびっくりするくらい上手かったけれど、
足を引っ張らないようにってレッスンを重ねてきた。私の努力が認められたみたいで嬉しい。
「本当に、アイドルとしてテレビに出られるんだよね。もう肩書きだけのアイドルじゃなくて、本当のアイドルになるんだね」
「そうよ。でも」
千早ちゃんは、フェンスから離れて私の方へ向き直った。
「まだスタートラインに立ったばかり。ここからが本番なんだから」
私を見据える千早ちゃんの瞳には、強い光。
私は、千早ちゃんがどうして歌にこだわり続けるかを知らない。でも、いつからか
その目標へたどり着く支えになりたい、って思うようになっていた。
「春香、デビューする前にあなたに言った事があるわよね。私は歌で認められたいって。アイドルはそのための手段に過ぎないの。
多くの人たちに私の歌声を聞いて貰うために、アイドルをするのよ」
ただ頷くだけの私に、千早ちゃんは畳みかけるように話す。

「私は、もっと私の歌声を届けたい。だから目指すの、アイドルとしての高みを」
夕焼けを背に、透き通った声ではっきりと宣言した彼女の姿はとても儚げで。
だから私は、彼女を傷つけないようにそっと抱きしめた。


「は、春香っ、どうしたの」
顔は見えないけれど、千早ちゃんの声は震えている。緊張しているのかな、それとも怒っているのかな。
「千早ちゃん」
抱きしめた手を緩めないままで、私は千早ちゃんに語りかける。
「私は、千早ちゃんの目指すところへ一緒に行きたい。私は、千早ちゃんほど歌が上手い訳じゃないけど、精一杯に努力するから。
千早ちゃんが苦手なところは、私が頑張ってフォローするから」
なんだろう、恋人に告白するみたいで凄く恥ずかしい。言ってから、せっかく冷めたはずの顔が耳まで熱くなるのが分かる。
ぎゅっ、と抱き返される感触。私が千早ちゃんの体を抱きしめたように、千早ちゃんも私の事を抱きしめてくれたのだ。
「ありがとう、春香」
耳打ちされた千早ちゃんの言葉は優しくて。
この思いを間違えにしちゃいけないって、私は強く思ったのだ。

(了)

* * *

話は変わりますが、毎週土曜日に行っていたネットラジオですが暫くお休みしようと考えております。
資格の勉強やら何やらを、そろそろ追い込みを掛けなければならない時期になってきたので。
積もる用件が終わり、また時間が出来たらその時にお会いしましょう。

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