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人生の落伍者が酒に塗れながらくだらない事を書き連ねます
(2024/11/22)
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(2010/10/08)
たまには文章を書かないと忘れてしまいます。
と言う事で今回もやってみました1時間SS。お題は「投げる」を使用しました。
それではご笑覧下さいませ。

* * *
秋晴れの空の下、三方をコンクリで打ち固められたどぶ川に沿って歩く。
足元には蹴って下さいと言わんばかりの大きさの石。
あっちへ蹴ったり、こっちへ蹴ったり。しばらく子供の様に石を転がし遊んでいたが、
それにも飽きると、私は石を拾い上げ、わきを流れる川へと放り投げた。




IF you throw away...?


* * *
「伊織ちゃーん、待ってよー」
私の投げた石くれが水音を立てて沈んでいったのと、背中から雪歩の声が聞こえて来たのは
ほぼ同時だった。ぱたぱたと言う小気味よい足音が近づいてくる。
脳裏に、子犬の様な雪歩の姿がありありと浮かんだ。
追いすがる足音が近づいてきて、止まる。二、三度呼吸を整える気配がして、
「伊織ちゃん、どうしてお仕事休んだの?プロデューサーも事務所のみんなも、心配していたよ?」
雪歩は問いかけて来た。私は雪歩の方へは向かず、石の沈んでいった先を眺めながら、
「別に……」
とだけ答えた。と、肩に手が伸びて、雪歩の方へ向き直される。目の前には雪歩の真剣な顔。
「別に、でお仕事休んじゃうの?私達、ようやくアイドルとしてのお仕事をもらうようになったんだよ?」
そうなのだ。私と雪歩が「ユキウサギ」と言うデュオとしてデビューしてから、
ようやく大口の仕事が入るようになったのはつい最近の事だ。

そして、私がアイドルと言う仕事を投げ出したくなってしまったのもまたついこの間の事なのだ。

ゴールデンの時間帯では無いものの、ようやく掴んだ歌番組への出場枠。
だと言うのに私と言ったら、歌詞は間違えるわ、ダンスはまるまる一パート飛ばしてしまうわで。
結局音声やダンスは差し替えと言う事で、面目に泥を塗ってしまったのだ。
ステージの失敗をせめてトークで挽回しようと意気込んではみたものの。
一人で空回る私に、合わせる事も出来ずにおろおろする雪歩。
どう贔屓目に見たって「印象は最悪」な映像が出来上がってしまったと言う事だ。

思いだしただけでも腹が立ってくる。雪歩にでは無くて、自分に対してだけれども。
でも、怒りのはけ口が見つからなくて。
「この間の収録の事、忘れた訳じゃないでしょ?あそこで雪歩が少しでもフォローしてくれたら、
無様な姿、晒す事なんてなかったのに」
目の前の雪歩にぶつけてしまう。
雪歩の表情はみるみる曇っていく。私の肩をつかむ力も心なしか弱くなった。
「伊織ちゃん、ごめんね。私、あまり周りに合わせて話すのは上手じゃないから」
また、雪歩の悪い癖だ。事務所の仲間達に猫かぶりをする事なんてなくなり、私の棘のある態度も言葉も、
相手との距離を測る一つの手段だと言うのに、今でも雪歩は私の態度を見ると自分を抑えてしまう。
私の言葉は止まらない。
「大体、あの収録で何となく分かっちゃったのよ。私ってアイドルとしてここいら止まりなんだって」

にわかに、雪歩の瞳に力がみなぎった、気がした。

「『アイドルとしてここいら止まり』って、伊織ちゃんの夢ってその程度だったの?」
雪歩の口調はいつも通り静かなのに、圧倒されるような感覚。
私とそれほど変わらない体格なのに、ずぅっと大きい様な圧迫感を覚えた。
「伊織ちゃんは以前話していたよね?『私は誰の肩書きも借りない、自分だけの力で自分の力を認めさせたい』って。
その目標は、その夢は、一回番組で失敗した位で諦めちゃうものだったの?」
答える事が出来ずに、目をそらすだけの私。
雪歩はなおも続ける。
「ねぇ、はっきり答えてよ伊織ちゃん。今まで私に話した夢って、全部嘘だったの?
一回きりの失敗で今までのもの全てを捨ててしまう位のものだったの?」

私を掴んで離そうとしない雪歩に、私と正反対な彼女の姿を見た。
普段は自信がなくて、おどおどした見かけの癖に、どうしてこんなにも芯の強いところを持っているのだろう。
そして、今になってちょっとだけ分かった事。
虚勢と傲慢さで弱い自分を隠している私に、雪歩みたいな子をパートナーとしてあてがった事。

私は今度こそ雪歩の顔を向き、出来る限りの精いっぱいの気勢で答えた。
「あんたの言葉で目が覚めたわ。一度の失敗くらいでめそめそしているなんて、
この伊織ちゃんにはふさわしくないものね」
私の言葉に雪歩も目を細めて、
「うん、それでこそ私の知ってる伊織ちゃんだ」
と笑ってくれた。

遠くから聞こえてくる、私達を呼ぶ声。
「あ、プロデューサーさんの声だ……。伊織ちゃん、戻ろう?」
手を引く雪歩に、私は足を進めた。
「にひひ、充電は終わったわ、さぁ行くわよ雪歩」
そう言って、雪歩を追い抜かんばかりに、私は駆けだした。

(了)

* * *
どうでもいい話ですが、1時間に2ケタKB書き上げる人をばらしてみてみたい。
主に脳味噌の構造とか、タイピングに使う筋肉とか。

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