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夏の暑さが治まり、涼やかな気配に幻想郷が包まれる頃。
夏の日差しとは打って変わって、静かな秋雨が降り注ぐ様になる。
植物たちが実りの時を迎えようとするこの時期の雨は、里の人達や
山に住む妖怪たちには恵みの雨となるのだが、
中にはこの秋雨を疎ましく思うものたちも、幻想郷にはいるのだ。
りゅうじんさまをさがして
「ちょっとルナ、桶でも何でもいいから持ってきて!酷い雨漏りだよ」
「サニー、そんなに慌てないでよ……って、折角貰って来た珈琲豆がぁ!」
「この調子じゃ床もぐしょぐしょになっちゃう。あ、この新聞紙使うわね」
「あー、待ってよサフィー、それ読みかけなのにぃ!」
……と、まぁこんな具合に。
古木のうろを住まいとする三匹の妖精たちにとっても、じとじとと続く秋雨は
面倒ごとに違いなかったのだ。
「何とか雨漏りは治まったわね、天気が良くなったらちゃんとふさがる様にしないとねぇ」
「床も水浸しになるのは何とか避けられたみたい。もう一度拭き直す必要があるでしょうけど」
先の大騒ぎを凌いだサニーミルクにスターサファイア。二人の顔は達成感で晴れやかなものだ。
その一方で。
「……あなた達、私に慰めの言葉も謝罪の言葉も無いわけ……?」
お気に入りのコーヒーを湿らせてしまった上に、読みかけの新聞も床拭きの雑巾がわりにされてしまった
ルナチャイルドは意気消沈気味だ。だと言うのに
「緊急事態なんだから多少の犠牲はつきものなのよ!分かってるわよね、ルナ」
「御免なさいね、でも手近にあったのはあの新聞紙だったから……」
サニーもサフィーもおざなりな言葉を掛けるばかり。
まぁ、私達ってドライな集まりだってことは理解している積りだったけれどもさ。
それでも悉く貧乏くじを引いて、しかも労いの言葉も無し、なんてね。
これが私たちの力関係か、と柄にもなく物悲しい気持ちで胸が塞がりそうになるルナなのだった。
「それにしても何か釈然としないわね~」
「?釈然としないって、何が」
木の壁をくりぬいて取りつけたのぞき窓から外を眺めるサニーに、サフィーは尋ねる。
窓から見える空はすっかり雲が薄くなって、その合間からところどころ、傾きかけた陽の光が
差してくるのが見えた。
「この時期の雨が、よ。梅雨の時みたいほど長続きするわけでもなく、夕立みたいに大降りするわけでもないじゃない」
確かにこの季節の雨は、どの季節の雨とも違う。ゆるゆると降り続いては、静かに灯が消える様に治まっていく。
二人が頭を抱えているところに、ルナは「そう言えば」と、口を開いた。
「雨って、竜神さまが通った後に降るものでしょう?だからこの時期の雨っていうのは……」
ルナが言葉を終える前に、二人は顔を見合わせると、にんまり笑顔を浮かべてルナの頭を抱え込んだ。
「ふーん、流石ルナチャイルド様は賢くていらっしゃる。いつも天狗の新聞を読んで情報に聡いからかしら~?」
「それとも誰かの入れ知恵かしらね。あの陰気な道具屋さんとか?」
「ちょ、違うって!止めて、突っつかないでよ!」
ほれほれとからかいの言葉を混ぜながら突っついてくる二人を振り払って、
「そうじゃなくって、私が言いたいのは――」
ルナチャイルドは口を開いた。
* * *
「ゆっくりと竜神さまが飛んでいると言う事は、竜神さまの姿が見られるかもしれない」
ルナの言葉はもっともなものだった。静かに長々と続いて、そして消えていく秋雨は竜神さまが
普段より緩やかに空を駈けていることの表れなのだろう。
その言葉を頼りに、家を出て空へと飛び出した3匹だったが、同様の疑問が彼女たちの頭によぎった。
竜神さまはどこを通り、どこへ帰っていくのだろう、と。
晴れた日の雲の話なら聞いたことがある。明け方に山に空いた穴から飛び出して、また夕暮れになると山に帰っていくのだと。
でも幻想郷に雨を降らせる竜神さまはもっと大きいのだろう。もしかしたら、空を覆い尽くすほどの大きさなのかもしれない。
3匹の妖精たちは、あちらこちらを飛び回った。赤いお屋敷のある泉の傍へも行ったし、山の妖怪たちに気づかれないほどに、山の近くを
飛んで回ったりもした。
けれども、竜神の姿はどこにもみる事が出来なかった。
「あぁ、日が沈んで行っちゃうよ……」
気が付けば空を覆っていた雲も切れ切れとなって、西に傾いた日の光が、赤々と雲を照らしていた。
「これ以上は無理かしらね……陽が落ちたら周りもすっかり見えなくなっちゃうだろうし」
サニーはがっくりと肩を落とす。
「私は二人より夜目が効くけれども、もう雲も散り散りになっちゃったし。竜神さまの足跡を辿ろうにもね」
強がるルナの言葉もどことなく頼りなげだ。
「もう、ルナが自信満々にあんなこと言うからあちこちを飛び回ったと言うのに」
「ちょっと待ってよサニー、全部私が悪いっていうの?」
あちこち飛び回った苦労がふいにされたみたいで、やり場のない思いをルナにぶつけてしまうサニーに、つい噛みついてしまうルナ。
「まぁまぁ。空が綺麗に染まっているから、とびっきりの夕日が見られるかもしれないわ」
二人を宥めるようなサフィーの言葉に取っ組み合いの手を止めて、沈もうとする夕陽へと振り向いた。
視線の先には大きな虹がありありと浮かんでいた。
「凄い……」
そう漏らすサニーに、
「そうだね……」と返すことしか出来ない二人。
「虹って、竜神さまの通ったあと、だったっけ」
「それじゃあ、私たち、竜神さまは見られなくても、その尻尾は捕まえた事になるのかな?」
「なーんだ、上出来じゃない」
そうして3人で顔を合わせて、笑いあった。
(終わってないけれど時間切れ)