バレンタインデーにはちょっと遅れてしまったのですが、
何だか面白いネタが降って来たのでTwitterに投稿したものをまとめて
こちらに投下します。
ごく掌編ですが、ご笑覧下さいませ。
「チョコレートはこれくらい刻めば良いの?」
「あ、うん。もうちょっと細かく刻むと溶けやすくなるかな」
「わかったわ」
不器用な手つきながら楽しげにチョコ作りに励む律子姉ちゃんとは裏腹に、
僕の気持ちはどんどん沈んでいってしまう。原因は分かっている。
僕の子供っぽい嫉妬ゆえだ。
律子姉ちゃんが楽しげに作るチョコレート。あれが僕に渡される事なんて、ない。
結局律子姉ちゃんにとって僕は都合のいい弟分でしか無いわけだ。
「あとはこれにオレンジビターとクリームを混ぜれば……って涼、聞いてる?」
「あ、あぁうん、聞いてるよ」
その事が少しだけ、胸を痛めた。
僕に作る事を手伝わせたチョコをだれに渡すのか、
結局律子姉ちゃんは答えをはぐらかせたままで2月14日を迎えた。
男性アイドルとして再デビューしてから、同性からチョコレートをねだられるのは
相変わらずだとしても、女性のファン達や、何より事務所の仲間たちからチョコを
貰えるのは嬉しかった。
事務所でのミーティングを終えて外に出ると、僕を待っている人影が一つ。
「随分と長く掛ったわね」
律子姉ちゃんだ。
「あんたが出てくるまで外で待っていたから、ちょっと冷えちゃったわ」
怒ったような口ぶり。
だけど律子姉ちゃんの本心が全く別にある事を僕は知っている。
「外で待たずに、事務所に入ってくれば良かったのに」
そう言う僕に、律子姉ちゃんは
「とくに用事も無いのに、余所様のところにあがりこむ事なんて出来ないでしょう」
と答える。
「それに」
目を少し伏せて、律子姉ちゃんは続ける。
「人の視線があるところでは出来そうにないから」
「出来そうにないって、何が?」
僕の問いに答える代わりに、律子姉ちゃんは包みを押し付けてきた。
よく見れば、その包みは姉ちゃんが僕と一緒に作ったチョコレートを包んだものだった。
「……どうして僕に渡すって言ってくれなかったの?」
「言えるわけないでしょうそんな事……恥ずかしくって」
顔を真っ赤にしてうつむく姉ちゃんに、
「ありがとう」と僕は答える。
赤くなった顔をますます赤くして、
「いい、いつもの埋め合わせって言うだけで他意は無いんだからね」
と答える律子姉ちゃんに、分かっているよと答える僕。
「さぁ、帰るわよ」
というなりずんずんと進んでいく姉ちゃんの背中を追って、僕は歩く。
律子姉ちゃんから貰ったチョコの包みを大事そうに抱えて。
律子姉ちゃんの僕への思いがどんな物かなんて知る由もない。
だけど今の僕にはこれだけで十分だって、思う。
そう思うとあの時抱いた嫉妬心もつまらないものだって笑えるようになったのだ
(了)
* * *
やっぱりお姉ちゃんと弟と言う組み合わせが好きだなぁ、自分って奴は……
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