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人生の落伍者が酒に塗れながらくだらない事を書き連ねます
(2024/04/26)
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(2011/01/28)

ご無沙汰しております。
生存報告とリハビリを兼ねまして、1時間SSに挑戦しました。
お題は「読書」を使用しました。……少しずれてしまいましたけどね。
では、ご笑覧あれ。


「カバーはお掛けしますか?」
「いえその……とにかく早く袋にしまって下さい!」
にこやかに応対する店員さんに対して、僕は急かす様に梱包を促す。
僕の願いと言えば、このまま誰にも見つからずにこの場を後にする事だが。
「あ、涼さん」
後ろからかけられた声に思わず身を強ばらせてしまう。
よもや、こんなところで顔見知りと出会ってしまうなんて。
だがまだ大丈夫、僕が買ったものさえ見られずにさえいれば。
「……こう言う本読むんだ。何だか、意外……。」
しかし、絵理ちゃんが身を乗り出したことでレジとの間を遮るはずだった僕の身体は全く用をなさなくなり。
「ぎゃおおおおおん!?」
僕の願いは儚くついえてしまったのだった。

ほんのなかに、こたえはあるの

「ありがとうございましたー」
店員さんの声を背に、僕と絵理ちゃんは書店を後にする。
二人並んで自動ドアから出てくる姿は、普段通りなら仲の良い友人達と映ったろうが、
果たして一方がげっそりとした表情をして、もう一方が面白いおもちゃを見つけたように
ぴかぴかとした笑顔を浮かべていたとしたら、どう見えるだろうか。

「……絵理ちゃんは、どうして僕を見つけたの?」
店を出てから伸びる大通りを肩を並べて歩きながら、僕は隣の絵理ちゃんに尋ねる。
「ほんの偶然。立ち読みをしていて、お店を出ようとしたところにレジに並ぶ涼さんを見つけたから」
「無視してくれたっていいのに」
「ん……涼さん、普段と違ってちょっとそわそわしているみたいだったから」
少しふくれながら尋ねる僕に、肩をひそめて答える絵理ちゃん。意地悪だ。

「それにしたって、隠す事なんて、無いのに」
「女性アイドルしていた時と違って、今"あれ"を買うのは恥ずかしいよ……」
ちなみにあれと言うのは、律子姉ちゃんに買ってくるように頼まれていた少女小説の事だ。
その……男としては知りたくない世界が広がっている様なやつじゃなくて、
王道と呼んでも良いボーイミーツガールの作品だけれども。
絵理ちゃんときたら、他に頼まれていた本との間に紛れさせていたのを目ざとく見つけてきたものだから。
「なんだか、普通のDVDにえっちなDVDを紛れ込ませて借りていく人みたい」
「……色々と言いたい事はあるけれど、絵理ちゃんの発言はアイドルとしてどうかと思うんだ」
彼女の発言に、思わず突っ込みを入れてしまうのだった。

「改めて聞くけれど、その本、全部涼さんが読むの?」
「実はね、これ全部律子姉ちゃんから頼まれたものなんだ」
尋ねてくる絵理ちゃんに僕は答える。
律子姉ちゃん。僕の従姉で、事務のアルバイトからアイドル候補生として見出され
その後知性派アイドルとしてその地位を確たるものにしている、僕達の先輩にあたる存在だ。
「そうなんだ……」
律子姉ちゃんの事は絵理ちゃんも知っているだろうから、あまり驚いた様子は無いけれど。
「この業界に入ったのも芸能界のマネジメントに興味があったのがきっかけだって言っていたし。
今でも将来の目標として視野に入れているとも言ってた」
ちなみにこの日買った本は3冊。先の少女小説を除くと、昨今の経済的な事件から取材した経営の本と、
マーケティングの本だったりする。
「将来のために、予習?」
「うん、今通っている先で専攻していることなんかとも関係があるみたいだけど」
尋ねてくる絵理ちゃんに僕は答えた。

「でも、忙しいからって少女小説は別にしたっていいのに」
「涼さん、いつも買ってくるように頼まれるの?」
ぼやくように呟いた僕の言葉に、絵理ちゃんは問いかける。
「うん。今日みたいに他の買い物が重ならない時にも『買ってきなさい』って言われるんだよ。
挙句に『もう少し女心を勉強しなさい』って、読むように勧めてくるんだよ?」
不機嫌そうな僕の答えに、でも絵理ちゃんはくすくすと笑いだして。
「え、絵理ちゃん?」
「律子さんって、自分の個人的なところはあんまりはっきりとさせない人。それを教えてもらえるなんて、信頼されている証拠?」
「そ、そうかも知れないね」
僕と姉ちゃんは姉弟みたいな関係なのだから、当たり前だと思うのだけど。
「それに、ね」
「ん」
まだ言い足りない事があるのか、絵理ちゃんは続ける。
「好きな人とは同じ話題を共有したい……それって、自然な気持ち」
「そ、そう言うものなのかなぁ……」
混乱しかかっている僕の瞳を覗きこんで、絵理ちゃんは言う。
「律子さん、涼さんの事が大好きなんだね」


駅に着いたところで、「涼さん、頑張れ?」との言葉を残して
絵理ちゃんは改札口へと呑みこまれていった。
小さくなっていく絵理ちゃんの背中を見つめながら、頭の中では絵理ちゃんの言葉がリフレインしていた。
(律子さん、涼さんの事が大好きなんだね)
いまいち実感が湧かない言葉で、でも本当だったらどうなるのだろうと、頭がくらくらしてくる。
(好きな人とは同じ話題を共有したい)
そう考えると、律子姉ちゃんの無理強いも姉貴分としての我がままでは無くて、僕の事を意識しての事なのだろうか。
でも、律子姉ちゃんの僕を見る「好き」と言う意味はどういう事なのだろう。
そして、僕自身が律子姉ちゃんをどう思っているか。

(考えただけで、どうにかなっちゃいそうだよ)
すぐに答えは出せない。出せそうにはないけれど。

もしかして、ほんのなかにこたえはあるのかな。
 

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